妊娠中の「うつ」もある
これまでは出産後の「うつ」についてお話ししてきましたが、「うつ」におちいりやすいのは出産後に限ったことではありません。
妊娠中の女性もまた「うつ」になりやすいのです。
自分のからだのなかに新しい生命が宿っていることを知ったとき、すべての女性はこのうえない幸福感を味わうと思い込んでいる方が多いかもしれません。
もちろん、そういう女性も少なくないでしょう。
「男の子が生まれるのかな、それとも女の子かな」
とか、
「どんな名前にしようかな」
と考えるだけでうきうきしてきますから……。
そうした思い込みもあって、妊娠中に「うつ」になる女性はそれほど多くはないと考えられていたのです。
ところが、最近になって妊娠中の女性も「うつ」になりやすいということがわかってきました。
熊本大学医学部の北村俊則氏らの研究によれば、妊娠中の女性の17%がうつ病を発症し、そのうちの7割以上が妊娠初期からうつ病の症状があらわれているといいます。
妊娠中のうつ病の背景には、まずからだの変化があります。
妊娠初期には、つわりや貧血、疲労・倦怠などの体調不良におちいることがよくあります。
また、女性のなかには妊娠によって体型が変わっていくことに不安を感じる人もいます。
とくに、流産や死産を経験した人は、再び妊娠したときに「今度は大丈夫かしら」などと心配になりがちです。
こうした心理的なプレッシャーが「うつ」の引き金になることもあります。
流産や死産を経験した女性の36%が「うつ」を経験するという報告もあります。
さらに、望まない妊娠も「うつ」の危険因子です。
人によっては「妊娠を望まないなんて、なんて冷たい女性だ」と思われるかもしれませんが、別に妊娠を望まないからといって、その人が自分勝手で愛情のない人間というわけではありません。
現代は価値観やライフスタイルが多様化しています。
家庭や地域社会のなかで生きがいを見出していくことを喜びとする女性もいれば、仕事を通じて自分という存在を表現したいと願う人もいるのです。
そこには、どちらが「いい生き方」で、どちらが「悪い生き方」という区別はありません。
それぞれにそれぞれの夢があり、それぞれの生き方があります。
それぞれがそれぞれの自己実現に向かって生きようとしているとき、妊娠・出産・育児がその人の望む人生計画の妨げになることだってありうるのです。
その計画への思いが強ければ強いほど、妊娠はある意味で困惑の対象となるでしょう。
その一方で、そのような「非人間的」な反応をしている自分を責める気持ちもわいてきます。
そのような状況では、気分が不快で憂うつになったとしても不思議ではありません。
赤ちゃんを体内に宿したときには、人は喜びやさまざまな期待感を抱きます。
しかし、それだけではなく、いろいろな不安もわいてきます。
そうした気持ちをむやみに怖がることはありませんが、それが重い「うつ」にまで発展しないように防止対策を講じることは大切です。
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